「きらくえん」が運営する4つ目の施設として2001年に開設された「けま喜楽苑」は、すべての部屋が個室。集団ではなくグループ単位での暮らし(ユニットケア)を実現した施設は当時まだ珍しく、全国から見学者が殺到しました。国が「これから建てる特別養護老人ホームは全室個室・ユニットケアを標準に」との方針を打ち出す2年も前のことでした。
従来のように1部屋に複数の人が寝起きし、ベッドをカーテンや引き戸で区切るやり方では、どんなに努力をしてもプライバシーを守ることが難しく、感染症が拡がりやすいなどの危険もあります。そこで「けま喜楽苑」では、人権尊重をうたう法人の理念と実践を引継ぎ、高齢者福祉の先進国の北欧からも学んで、入居者一人ひとりの個別性と居住性に着目したケアと環境の充実に取り組みました。
施設は介護を受ける場ではなく、暮らしの場です。
ご入居から終末期に至るまで、入居者を生活の主人公として、その人らしさや役割を発揮しながら自由に暮らしていただくことを、援助の方針にしています。
また、年間を通じて施設主催の季節行事や介護講座の開催、地域の祭りへの参加、保育所・学校との交流事業を行っています。
地道な交流を積み重ねながら、地域のみなさまにあたたかくサポートしていただき、開設から20数年が経ちました。
当初は田んぼや空き地だったこの地も今では様変わりし、人が行き交う住宅街となりました。
元気にあいさつを交わしてくれる学生たちや、四季折々の花を楽しみに立ち寄ってくださる方々、玄関前のウッドデッキに遊びにくる子どもたち。「けま喜楽苑」が、何気ない街の風景に溶け込んでいます。
利用者への福祉サービスだけでなく、地域のさまざまなニーズに目を向けて、これからもノーマライゼーション理念を実践していきたいと思います。
グループホーム「いなの家」
暮らしのルールは自分たちでつくる
特養の向かいには認知症高齢者のグループホーム「いなの家」があります。
入り口が町家風になった純和風建築で、高齢者世代が落ち着いて過ごせる環境のもと、入居者が主体となって日々の暮らしを営んでいます。
なかでも「入居者自治会」は認知症の当事者が自分の気持ちを伝え、他の人の思いにも理解を深めながら自己表現、自己決定ができる大切な場です。
「夜は何時までテレビを見るか」「どんなものが食べたいか」など、毎回さまざまなことを話し合います。時には災害義援金を募ったり、出かけたい場所に行ったり。暮らしのルールや過ごし方は自分たちで決めているのです。
けま喜楽苑 施設長