とりくみ
ひとつ目の特養 喜楽苑
まず言葉から取り組んだ「人権を守る」実践
喜楽苑は、残念ながら当時の特養のスタンダードである4床室中心の施設でしたが、「人権を守る」という運営方針をケアの現場で具体化するために、 Ⅰ.人間の尊厳を守る Ⅱ.プライバシーを守る Ⅲ.市民的自由・社会参加の尊重の3つを実践の柱とすることにしました。
Ⅰの人間の尊厳を守るとりくみでは、まず言葉の言い直し運動に取り組みました。一般社会の常識を特養でも常識とするために、大阪弁でいいから人生の大先輩である入居者・利用者には、尊敬語、謙譲語を。決して指示形・命令形の言葉を使わない。認知症の方への赤ちゃん言葉も禁止しました。そして問いかける言葉や依頼形の言葉を徹底させました。問いかける言葉や依頼形の言葉とは「お風呂に入ってください」ではなく、「お風呂に入られますか」「お風呂に入っていただけますか」という言い方です。すると、「うん、すぐ入るわ」とか「もうちょっとあとにしてほしいな」と自分の意志が反映された答えが返ってきます。自己決定ができる、言い換えると人間の尊厳を守る言葉遣いです。 また、お話をする時の目線は水平か下から、ということも決めました。
Ⅱのプライバシーを徹底して守るとりくみでは、居室の入退時には必ず挨拶をする、オムツ交換時にはベッド回りのカーテンを360度まわしきり、絶対に人に見せない。人間洗浄機のようなストレッチャー型の浴槽の使用はできるだけ避ける。排泄介助や入浴介助は同性介助を基本としました。
Ⅲの市民的自由と社会参加を進めるとりくみでは、「認知症高齢者にもノーマライゼーションを」を合言葉にしました。家具の持ち込み、お酒やタバコ、外泊や外出、外食や買い物など、なんでも自由ということにしました。病気になるとこれまでのかかりつけのホームドクターに診てもらう。夜の居酒屋にも繰り出す。「ふるさと訪問」と称して泊りがけの旅行にも出かける、などにもとりくみました。「ふるさと訪問」では、ふるさとのご親戚や古いお友だちの昔語りから、その方の人生を深く知り、「80年の人生に思いを馳せる介護」をしようと、ケアのレベルがあがっていきました。地域の老人会や、趣味の会にも加入し、地域に住む高齢者と同じように参加する。認知症の方の徘徊は、「外出、お散歩」と受け止め、自由に出ていただき、つき添って、そっと見守る、などにとりくみました。地域の方々も協力してくださいました。
このようなことが実現していく中で地域の福祉力も高まっていきました。 特養の家族会、ショートステイやデイサービス等在宅福祉サービス利用者の家族会、年々数人が亡くなるのですが、その亡くなった方々の家族OB会もできました。この3つの家族会のご理解とご協力、そして多くのボランティアの支援、地域住民のとの連帯が、強い力を発揮しました。15団体2万人の「あまがさき地域福祉推進協議会」も生まれ、講演会や市長との懇談会、配食サービスのモデル事業などにとりくみました。また、施設の社会化とは地域住民に一方的にお世話になるだけではなく、施設職員も地域の諸課題に目を向け、住民と共にその解決に努力する、そのような相互関係が重要であると気づき、地域のさまざまな会合に出席し、通学路の変更のための署名活動なども参加しました。